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わたしを包み込む充輝君の体は、熱かった。
頬に当たる胸から、鼓動が伝わってくる。充輝君の心臓は、わたしと同じくらい早い。
背中に回されている腕は優しくて、ドキドキするのに心地いい。
腕を緩めた充輝君が、自分の額をわたしの額にこつんと当てた。お互いの鼻先が触れる。
「……今日泊まっていって」
カーテンの向こうから、柔らかな光が部屋にそっと入り込んでくる。
月明かりと、遠くの建物からの灯りが降り注ぐ優しい夜。
夜が終わったら、新しい朝が来る。
彼と一緒に迎える新しい土曜日は、きっといつもより鮮やかで、いつもよりキラキラしているに違いない。
落とした声と同じ甘い眼差しを向けてくる彼に、小首を傾げ甘えた声を出してみる。
自分史上、最高に甘えた微笑みを添えて。
「じゃあ、今すぐ結婚して」
「それは無理」
「…………」
「…………」
「……じゃあ、帰る」
充輝君が笑い、わたしも笑う。
長い指が、わたしの頬に触れる。
長い睫毛が、わたしの睫毛に触れる。
ゆっくりと目を閉じた。
―fin―
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