プレミアムフライデー・ナイト

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【side iroha/望月結菜】 「今から迎えに来てくれるそうです」 通常よりもワントーン高い声を出していた里美ちゃんが、振り返り言った。 1月の最終金曜日、七時半、東京麻布。 お給料日後最初の週末である今日、街はいつも以上の賑わいを見せている。 麻布十番駅入り口付近に陣取るわたし達の横をたくさんの人が通り過ぎていき、ぽっかりと開いた地下鉄へと続く四角い口は、人のかたまりを吐き出したり吸い込んだりをひっきりなしに繰り返している。 吹き付けてきた冷たい風が頬を冷やし、ぶるりと震えた。 今日はここ最近の中で特に気温が低く、朝から夕方まで降っていた雨の影響か、底冷えするような寒さだ。 来週からはもっと冷え込むらしいし、うんざりしかしない。 ピンクベージュのストールを口元まで引き上げようとして、さっきグロスを塗ったばかりだったと思い出し、その手を引っ込めた。 行き場をなくした手をコートのポケットに入れると、冷えた指先が携帯電話に当たった。 指先と同じように冷たい携帯電話は、今も沈黙を守っている。
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