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第1章
車窓を雨の街が流れていく。そのスピードがゆっくりと落ちてピタリと止まる。
再び景色が流れはじめたとき、私は座席の横に立っていた女の子に「良かったら座って」と声を掛けた。1本のシワすら付いていないような真新しい制服とリボンの色で、彼女がウチの高校の1年生だということはすぐに分かる。
彼女は、私の顔を見た後、キョロキョロと辺り見回した。おそらく、自分に掛けられた言葉だと確信が持てなかったのだろう。だから私は、笑顔を作ってもうもう一度「どうぞ」と声を掛けた。
彼女は、少し戸惑ったような、恐縮したような表情で「ありがとうございます」と頭を下げて私の隣に座った。肩をすぼめて窮屈そうに座る姿に思わず笑みが浮かぶ。
彼女の態度の理由は、考えるまでもない。私のリボンの色で、3年生だと分かったからだ。私も1年生の頃は彼女と同じだった。
多くの生徒が登校するよりも1時間以上早い時間のバスは比較的空いている。それでも、座席はほぼ埋まるので、2人掛けの座席に相席するのは当たり前のことだ。しかし、面識のない学校の先輩との相席は気まずいだろう。
「朝練?」
私が聞くと、彼女は「はい」と固い声で返事をした。
「えっと、あの、先輩も、朝練ですか?」
聞き返す彼女の声には緊張がにじんでいる。初対面の先輩と話すのは緊張するよね、と少し申し訳ない気持ちになる。
「私は人混みが苦手だから、いつも早めに登校してるの」
「あ、そうなんですね」
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