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センパイは小さく頷く。
「それで、私、何もかもから逃げたくなったの。腫れ物に触るような家族からも、好奇心と嘲笑しかない学校からも、彼女がいる日本からも」
「それで、海外の大学に?」
「そう。だから、全然すごくない。ただ、ここから逃げたいって思ってるだけ」
グラスの中で溶けた氷がカランと鳴った。
「逃げたいって思ってたのに、私をナンパしたのはなぜですか?」
「ナンパ?」
センパイはちょっと目を大きくして私を見た。
「ナンパですよね?」
「えーっと、うん、まあ、そうだよね」
センパイは少し笑うと、ジュースをひと口含んだ。
「バスから、自転車に乗ってる姿を見たの。すごく強い向かい風の日だったんだけど、ものすごい形相で必死に自転車を漕いでるのが面白くて」
「げっ、そんなところを見られてたんですか?」
「うん。それから毎日のように見掛けるようになって。今日は機嫌よく歌ってるなーとか、なんだか元気がないけど何かあったのかな? とか、すごくニコニコしながら走ってるなーとか」
「ちょっと待ってください、すごく恥ずかしい感じなんですけど」
私は思わず頭を抱える。
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