第3章

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 センパイは小さく頷く。 「それで、私、何もかもから逃げたくなったの。腫れ物に触るような家族からも、好奇心と嘲笑しかない学校からも、彼女がいる日本からも」 「それで、海外の大学に?」 「そう。だから、全然すごくない。ただ、ここから逃げたいって思ってるだけ」  グラスの中で溶けた氷がカランと鳴った。 「逃げたいって思ってたのに、私をナンパしたのはなぜですか?」 「ナンパ?」  センパイはちょっと目を大きくして私を見た。 「ナンパですよね?」 「えーっと、うん、まあ、そうだよね」  センパイは少し笑うと、ジュースをひと口含んだ。 「バスから、自転車に乗ってる姿を見たの。すごく強い向かい風の日だったんだけど、ものすごい形相で必死に自転車を漕いでるのが面白くて」 「げっ、そんなところを見られてたんですか?」 「うん。それから毎日のように見掛けるようになって。今日は機嫌よく歌ってるなーとか、なんだか元気がないけど何かあったのかな? とか、すごくニコニコしながら走ってるなーとか」 「ちょっと待ってください、すごく恥ずかしい感じなんですけど」  私は思わず頭を抱える。
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