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ギターを弾かなくなって、もう何年になるだろう。
青年の指が大切そうにギターを弾く。
俺はこんな風にギターを大切に思っていたのだろうか。ギターが好きだったのだろうか。
もしかしたら、持って行き場のない気持ちの捌け口として使っていただけなのかもしれない。
葛城の父親は若いときからギターが好きで、30歳を迎えた年に会社を辞め、ギター専門店を開いた。
その時父親は既に結婚しており、4歳になる葛城と2歳になる妹がいた。それなのに何の相談もなく会社を辞めた夫を、妻は到底許すことが出来なかった。
それ以来夫婦喧嘩が耐えなくなり、葛城が小学校に上がる頃夫婦は離婚した。
葛城は父親に妹は母親に引き取られ、葛城は学校以外のほとんどを父のギター店で過ごすことになった。
葛城が小学2年になった時、父親がギターの基礎を教えてくれた。教わった事が出来ると父親が嬉しそうに笑ってくれたので、葛城は一生懸命ギターを練習するようになった。
あの頃が一番ギターを好きだったのかもしれないな。
まだ歌は続いていたが、そろそろ行かないとさすがにまずい。
もう少し聞いていたい気持ちに蓋をして、葛城は本来の目的地に向かった。
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