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4月半ばだというのに夜はまだ寒く、ギターを弾く指先がしびれる。
一曲終わるごとにグーパーして血流を促すが、あまり効果はなさそうだ。
誰に聞かせるでもなく始めた路上ライブだが、2年経った今は足を止めてくれる人やわざわざ聞きに来てくれる人も数人いて嬉しい。
同級生の真山もその1人だ。毎回ではないが、バイトがない日やバイトが早く終わった日はフラりと立ち寄り最後までいてくれる。
「一珂、これ」
寒いのがバレたのか、コンビニの温かいコーヒーが差し出される。
「ありがとう、助かるよ」
受け取ったカップを両手で持つと、冷えきって感覚がなかった指先がじんじんしてくる。
「俺が飲みたかったんだよ」
真山のさりげない優しさにはいつも感心するが、
男として負けているようでちょっと悔しい。
「飲めよ、冷めるぞ」
「でも……」
今日はいつもより寒いせいか、観客は真山とよく来てくれる女の子ともう1人、たぶん2回目の男の人の3人だけだ。人数が少ないとはいえ、観客がいるのに長時間中断するわけにはいかない。
「待ってるから飲んで」
女の子に促され、困った一珂はもう一人の客に視線を向けた。
あれ、葛城さん……?
まさか。
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