393人が本棚に入れています
本棚に追加
スーツ姿のサラリーマンが葛城に似ている気がしてびっくりし、思わず手の力が緩まる。
「一珂、コーヒー!」
真山の声に慌ててコーヒーを掴むと、強すぎたのかカップが歪みプラスチックの蓋が外れ中身が少し跳ねた。
「熱っ」
「バカ、火傷するぞ」
一珂からコーヒーを取り上げた真山が、ポケットからハンカチを取り出し渡してきた。
「ごめん」
アイロンのかかったハンカチを受け取り、一珂は手にかかったコーヒーを拭く。
比べるまでもなく完全に俺の敗けだ。
観念した一珂は素直にコーヒーを飲むことにした。
湯気の立つコーヒーにフーフーと息をかけながら、然り気無くサラリーマンに視線を移すが……。
いない。
さっきから歌を中断してるんだから帰って当然だ。
そう自分に言い聞かせるが、誰もいないその場所がやけにがらんと見えて一珂は泣きそうになった。
最初のコメントを投稿しよう!