pp《ピアニッシモ》

2/5
前へ
/98ページ
次へ
大きな拍手が体育館を満たす。 つい先程まで行われていた演劇が終わったらしい。 幕内では早々にセットが取り払われ、代わりにドラムやキーボードなどの楽器がセッティングされていく。 「やっと俺達の出番だな」 ドラムの卓也(たくや)が肩をブンブン回しながら近づいてきた。 「客は?」 「少し立ったが、ほぼ満席だ」 ベースの(みつる)の問に答えたのは、ボーカルの一輝(かずき)だ。 「満席か。やる気出てきた」 「ハハハ、充らしいな。あれ、イチ、どうした?」 緊張で震えている一珂(いちか)の肩に一輝が腕を回した。 「どうしよう、俺……」 「大丈夫。イチならちゃんとやれるさ」 「兄ちゃん……」 「そうそう、イッちゃんなら大丈夫だよ。観客なんてカボチャだと思えば楽勝だって。まあ正直、なんでカボチャに例えるのかは謎なんだけどさ。だって俺のカボチャのイメージはスーパーで売ってるカットされたオレンジので、あれと人間が結び付かない」 充が首をかしげると、 「ちげえよ。カボチャといったらハロウィンのお化けカボチャだろ」 卓也がつっこむ。 「え、それって逆に怖くない?お化けカボチャが客席に一杯って」 「ハイハイ、そこまで。逆に怖がらせてどうするんだよ」 「あ、イッちゃんごめん」 「悪かったよ」 一輝に怒られて、充と卓也が素直に謝った。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

392人が本棚に入れています
本棚に追加