mf《メゾフォルテ》

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「山下が……セクハラ?」 葛城はバカみたいに課長の言葉を繰り返した。 言葉がスムーズに頭に入って来なくて混乱する。 えっと、何だって?営業の谷田さんが辞めたのは山下のセクハラのせいで、谷田さん自身は事を公にするつもりはなかったのでひっそりと会社を辞めたのだが、どうしても納得できなかった同僚がほんの少しでも山下に反省させたいと課長に相談した? 「山下はまだ入社して間もないはずですが……」 「そうだ。まだ2ヶ月目だな」 山下を思い浮かべ、葛城はため息をつく。 あまり好きなタイプじゃない。 見た目はチャラいイケメンという感じだ。物怖じせず、口が立つので営業に向いていると判断されたようだが、実際は常務の甥というのが採用の大きな理由だろう。 山下は元々人の意見を素直に聞くタイプじゃない上に、本人も常務の甥という立場の優位さを理解していて、新人だというのに偉そうにしている。 「彼は今営業でしたね」 新人は研修期間中色んな部署を回って仕事を覚えるのが決まりで、山下は確か今営業にいたはずだ。 「もしかして、谷田さんが山下の教育上係に?」 「そうだ」 谷田さんは葛城より1年先輩で、去年葛城もお世話になった。明るくて、決して愛想がいいほうでない葛城にも分け隔てなく接してくれた。 研修では、配属されるとすぐ電話取りや簡単な 雑用を言い渡されるのだが指示が大雑把で分かりにくく、質問しようにもみんな忙しそうで声をかけにくい。焦って右往左往するばかりで、ほとんどの新人が自分が全く役に立たない事を痛感するのだ。 特に営業は厳しく、資料作りやコピーを山ほど頼まれ、合間を縫ってアポとりの電話やビラ配りもしなければならないので新人泣かせと呼ばれていた。
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