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谷田さん、辞めたのか。
「私、この会社好きなの。だからみんなにも好きになって欲しいな」
ほんの1年前、そう言って笑ってたのに。
……山下の奴。
営業に配属され辞めたいと泣く新人は過去に何人もいたらしいが、先輩をセクハラするなんて許せない。
「彼が常務の甥だと言う事は関係ありますか?」
「たぶんな。だけど、セクハラは犯罪だ。新人だろうが常務の甥であろうが関係ない。もし本当なら処分を下す必要がある。山下の行動を監視して報告しろ」
「はい」
葛城は課長である岸田に頭を下げた。
相変わらず食えない男だと思う。
岸田 隼人は名前からもわかるように岸田不動産社長である岸田 幸太郎の次男だ。ちなみに兄の岸田 海人は社長秘書として幸太郎に付き、日々社長の仕事を学んでいる。
葛城はまだ入社2年目で人事の中では一番下っぱだ。その葛城に密かに社員の素行を調査し、正す役割を与えたのは課長である岸田 隼人だ。
岸田曰く、葛城を選んだ理由は普段から一歩引いて人を観察するタイプで口が固く合気道で自衛が出来るかららしい。
自衛が必要な仕事なんて、正直調査のプロを雇えばと思う。
「嫌だと思っているのが丸分かりたぞ。今度一杯奢ってやるから」
課長が飲みたいだけだろ。
「……結構です」
「アハハ。とにかく任せたからな」
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