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「谷田さんて、山下の指導係だったよな?」
「はい。だけど、辞めちゃったんですよね。酷いと思いませんか?谷田さんが辞めたから、俺の指導係清水さんになったんですよ。あの人チャラくて苦手なんですよ」
同族嫌悪?
そう思ったが口には出さない。
それより気になったのは、谷田さんが辞めた事に対して全く罪悪感を感じていないことだ。
谷田さんは同僚にも詳細を話していないため、彼女の退職理由を知るものは誰もいない。ある日突然直属の上司に退職願いを持ってきて、辞めさせてくれと泣きながら訴えたらしい。
山下に聞いてみるか。
葛城はそう判断し、人気がない場所に山下を連れていった。
「なあ、お前は一体谷田さんに何をしたんだ?」
「何って……」
「セクハラまがいの事をしただろ?」
「…………」
それまで余裕だった山下の表情が強ばる。
「言えよ」
「それは……」
「言え」
「優しくされる内に谷田さんが好きになってしまって付き合ってと言ったんです。彼女は恋人がいるからとすぐに断ってきたんですが諦めきれなくて無理やりキスをしたんです」
「バカな事を。それで?」
「谷田さんに頬を殴られて腹が立ったので、俺とキスしたことを彼にばらすと脅しました。それと、おじさんに言って首にすると」
それで谷田さんは、首になる前に自主退職したんだ。
卑怯な奴だな。
「この事は岸田課長に報告する」
「え?」
「当たり前だ。セクハラじゃなくて強制猥褻罪だぞ。首になっても仕方がないことをしたんだ。覚悟しておけ」
「そんな……ちょっとキスしただけなのに」
「お前の考えなしの行動が彼女を傷つけ、彼女から大切な仕事を奪ったんだぞ」
「それは……」
慌てる山下に更に言い放つ。
「それと、常務に頼んでも無駄だぞ」
自分が犯した事の重大さを理解した山下を見て、少しだけ気分がすっきりした。
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