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「で、直接聞いたわけだ」
「………はい」
課長が神経質そうに指で机をトントンと叩く。
どうやら俺が山下に直接質問したのがまずかったらしい。
俺と話した後山下はすぐに弁護士(知り合いに弁護士がいるなんて金持ちは違うよな)に連絡し、谷田さんに謝罪し慰謝料を払い、彼女の転職先まで紹介したんだ。
一応谷田さんも納得した円満解決なんだが……。
「彼女を失ったのは会社にとってすごい損失なのは分かるな?」
「はい、すみませんでした」
葛城が深く頭を下げると、ふうというため息の後トントンが止んだ。
「これで山下の件は終わりだ」
課長は椅子から立ち上がると、「お疲れ」と言って、葛城の肩を叩いた。
「あの、山下は?」
「今回は処分なしだ。ハハ、そんなに落ち込むな。会社としてはそうだが、俺は容赦しないから。山下には彼女が居なくなった穴を埋めてもらうよ」
谷田さんの穴?
成績がよかった彼女の代わりを新人の山下ができるとは思えないが……。
「山下は高丸に付いてもらうことにした」
「高丸さんに、ですか?」
高丸は営業部の主任で、成績は毎回トップの人物だ。物腰が柔らかく声を荒らげたりはしないので穏やかな性格に見られるが、営業では鬼と呼ばれ恐れられていて彼の名前を聞いただけでみんな震え上がる。
葛城は高丸に直接関わらなかったので分からないが、去年研修に行った際営業課長が彼にすごく気を使っていて驚いた。
「山下の根性を叩き直せと高丸には伝えたが」
何かを思い出したのか、課長がフッと笑った。
「高丸の奴、営業で通じるように鍛えはするが山下の性格と性癖は一生治らないと抜かしやがった。だから、生活面はお前に任せる。山下がバカなことをしないよう面倒みろ」
「……嫌です」
「お前に拒否権があると思っているのか?」
「……いえ、わかりました」
「よし、もういいぞ。金曜だし、早く帰れ」
課長今、金曜を強調したな。
あー、やっぱり食えない性格をしている。
でも。何だか精神的にどっと疲れたから、癒しが必要だ。
「ではお先に失礼します」
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