mf《メゾフォルテ》

8/14

386人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
そう言えば山下の事でバタバタしていて、先週は歌を聞きに行けなかった。 『いちか』を思うと自然と気持ちが和らぐ。 なのに。 荷物を持ち廊下を歩いていたら、「葛城さーん」と知っている声に呼び止められた。 山下。 あんな事があったのに、こいつは相変わらず俺になついている。 「お帰りですか、いいなぁ。聞いてくださいよ。秘書課の研修のはずだったのに俺だけまた営業なんですよ。それも高丸さんの下。あの人いちいち細かくて疲れるんです」 「自業自得だな」 じろりと睨んでやると「へへ」と首を竦め全く反省しているようには見えない。 「一人前になるまでずっと高丸さんの下だから」 「嫌だ……」 「あ?」 「……すみません」 ついイライラが。 「もうあんなことするなよ」 「はい。女には懲りたので、今度は男にしようかなって。男は無しだと思ってたんですがちょっと変わってきて、俺案外男にもモテるんですよ」 「勝手にしろ。ただ、これ以上会社に迷惑をかけるようなら分かってるな」 「はい、気をつけます」 返事だけはいいが、全く信用ならない。 実際、数ヶ月後に山下がバカな真似をしている場面を目撃するのだが……。 じゃあと片手を上げた葛城は、山下から離れた。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

386人が本棚に入れています
本棚に追加