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そう言えば山下の事でバタバタしていて、先週は歌を聞きに行けなかった。
『いちか』を思うと自然と気持ちが和らぐ。
なのに。
荷物を持ち廊下を歩いていたら、「葛城さーん」と知っている声に呼び止められた。
山下。
あんな事があったのに、こいつは相変わらず俺になついている。
「お帰りですか、いいなぁ。聞いてくださいよ。秘書課の研修のはずだったのに俺だけまた営業なんですよ。それも高丸さんの下。あの人いちいち細かくて疲れるんです」
「自業自得だな」
じろりと睨んでやると「へへ」と首を竦め全く反省しているようには見えない。
「一人前になるまでずっと高丸さんの下だから」
「嫌だ……」
「あ?」
「……すみません」
ついイライラが。
「もうあんなことするなよ」
「はい。女には懲りたので、今度は男にしようかなって。男は無しだと思ってたんですがちょっと変わってきて、俺案外男にもモテるんですよ」
「勝手にしろ。ただ、これ以上会社に迷惑をかけるようなら分かってるな」
「はい、気をつけます」
返事だけはいいが、全く信用ならない。
実際、数ヶ月後に山下がバカな真似をしている場面を目撃するのだが……。
じゃあと片手を上げた葛城は、山下から離れた。
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