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「使って」
茶色のタオルを抱えたマスターがカウンターから出て来て、2人にタオルを手渡した。
「ありがとうございます」
「背広預かるよ」
にこりと笑ったマスターは一珂が被っていた背広を手に取り再び奥に消える。
「濡れなかった?」
「はい、大丈夫です。でも、あなたが……」
「俺は大丈夫」
柔らかいタオルで頭を拭きながら一珂を見る。少し髪が湿っているが服はほとんど濡れてないようでホッとする。
「ギターも平気?」
「はい、少しケースが濡れたくらいです」
慌ててポケットを探ろうとした一珂に戻ってきたマスターが声をかけた。
「タオル、使ってね」
「でも……」
「そのためのタオルだから」
「はい」
遠慮がちにギターを拭く一珂の髪を、後ろに回った葛城が拭いてやる。
「髪の毛濡れてたから」
「……すみません」
恥ずかしそうに身を竦める一珂の髪をタオルでそっと拭いていると、はぁという大きなため息が聞こえた。
「その子が大切なのは分かるけど、君の方が風邪引くよ」
確かに。頭はぐっしょりと濡れ、ワイシャツが体に張り付いて気持ち悪い。
「見たところ俺とサイズ変わらないみたいだし、良かったら着替え貸すけど」
有難い申し出だが、いいのだろうか?
葛城が戸惑っていると、マスターがくすりと笑った。
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