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「充君も卓也君も謝らないで。俺もう怖くないし大丈夫だから。兄ちゃんもありがとう」
「そうか良かった。とにかく最後だし、楽しもうな」
そう、高校3年の彼らにとっては、今年が最後の文化祭になる。
「すみませんマイクの位置はどこですか?」
舞台係りの生徒がが慌てて走ってくる。
「あ、それは……。俺ちょっと行ってくる」
一輝が腕を外し、舞台上に駆けていった。
「俺達も行ってくる」
その後を充と卓也が追う。
楽しもうと言われても………。
3人を見送っていると、くしゃと髪が優しく撫でられた。
「葛城さん?」
明るくノリのいい3人と違い葛城 雅也という男はいつも少し離れた所からみんなを見ていた。決して冷たい訳ではなく優しい眼差しではあったが。
夏休みからおよそ3か月の練習期間ほとんど話すことがなかった葛城が、今 一珂の隣に並び髪を撫でている。
「お前の音、素直で優しくて俺は好きだよ」
柔らかい低音が耳に響く。
「え……」
「だから、大丈夫だ」
大丈夫という言葉がストンと胸に落ちると、震えがピタリと止まった。
「楽しもうな」
「はい」
素直に頷くと「いい子だ」とまた髪を撫でられた。
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