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ずっと会いたいと願っていた葛城が目の前に居る。
話したいことや聞きたいことが沢山あったのに、感情ばかりが膨れ上がり何も言えない。
それがすごくもどかしくて、気持ちばかりが焦る。
その時ぽとりと手の甲に冷たいものが落ち、それが涙だと気づいた。
「イチ」
戸惑うように呼ばれた名前に反射的に顔を上げると、葛城が切れ長の目を細め優しい笑みを浮かべていた。
「久しぶりだな、元気にしてたか?」
「はい」
「良かった。立てるか?」
掴んでいた手をそっと離され、代わりに大きな手が腕を引いた。
一珂がしっかりと立ったのを確認すると、今度は頭に手が乗せられる。
「背、伸びたな。誰だか気づかなかったよ」
あの時と変わらない葛城の長い指が一珂の髪をするりと撫でる。
ドキドキが止まらない。
「それでも葛城さんには敵わないです」
「そうだな」
「あの、俺ギター始めたんです」
「聞いたよ。すごく上手くてびっくりした」
一珂はタコが出来て固くなった指を握りしめた。
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