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不安そうな一伽に一輝が大丈夫と笑顔を向ける。
「こらこら、苛めんな。まあ、可愛いのは納得だけど。実はイチは俺の弟でまだ中学生なんだ」
「似てるー」
「可愛いぞー」
「それって俺も可愛いってこと?照れるなぁ」
「はいはい可愛い、可愛い」
一輝は御座なりな誉め言葉に「サンキュー」と明るく返し、一珂の肩に手を置いた。
「今日はキーボードだけど、イチのピアノを聞いたら鳥肌立つよ。とにかく、困ってた俺達を助けるために特別に参加してくれたんだから、温かく見守ってやって」
「弟君、お兄ちゃんを助けるなんてカッコいいぞー」
「イチ君、頑張って。お姉さん応援してる」
温かい声援に一珂の表情がパッと明るくなる。「ありがとう」と口パクで礼を言った一珂に、一輝は気にするなと首を横に振る。
「最後にボーカルは俺。森沢 一輝。ボーカルは初めてだから、お手柔らかにな。 運営がしびれを切らしてるからそろそろ曲行くぞー」
「待ってました」
「曲目は……」
みんなの視線が一輝に集まる。
すごい熱気の中、卓也がワン、ツー、スリーとカウントを取る。
ドラムの力強いリズムに合わせ次々にみんなの音が重なっていく。
一輝の普段とは違う少し甘めの声が響くと、更に熱気が高まった。
心地いい、そして楽しい。
2曲目に入ると、一珂にも周りを見回す余裕が出てきた。
お手柔らかにと言っていた一輝は堂々としている。充は楽しそうに跳ねながら演奏し、卓也のドラムはしなやかで力強い。そして、葛城。
一輝が一珂のピアノを誉めてくれたが、鳥肌が立つと言うのはまさに葛城のギターを言うのだと思う。
すごい。
葛城の音は一珂を包んで離さなかった。
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