p《ピアノ》

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教授が出ていくと、隣に座っていた真山(まやま)が一珂の方を向いた。 「今日も行くのか?」 「そのつもりだけど何?」 「いや、酔っぱらいとか気を付けろよ。春って変な奴多いから」 「ありがとう。でも、大丈夫だよ」 「………そうか?」 「うん。気を付けるよ」 一珂(いちか)は真山に微笑むと教室を出た。 新入生を迎え、学内は活気を帯びている。 門まで続く道の両脇には桜の木が植えられており、数日前までは一面ピンクに染まっていた。 「桜、散っちゃったな」 一珂は、着なれないスーツを着て不安と希望を胸にここに入学した時の事を懐かしく思い出していた。 あれからもう2年も経ったなんて信じられない。長いと思っていた4年ももう半分過ぎてしまった。 「結構です」という固い声の方に一珂が目をやると、新入生がサークル勧誘のビラを断っていた。 最初の1枚をもらってしまったら最後、次々とビラを押し付けられて大変な事になるんだよな。 確か真山と一緒に帰っていて、気がつけば2人とも持ちきれないほど大量のビラを抱えていて、お互いを見比べて大笑いをした。 真山との付き合いももう2年か。入学式でたまたま席が隣りで、話してみると学部も同じで気が合い仲良くなったんだ。 「テニスサークルに入りませんか?」 「え……」 ボンヤリしていたら、1枚のビラを受け取ってしまった。 大学3年になったのにまだ……。 一珂は苦笑を浮かべながら、ビラを鞄に突っ込んだ。
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