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「準備完了ね」
1年先輩の中川が、出来上がった入社試験の問題を作業台の端に綺麗に並べた。
中川と葛城と同期の南でここ数日筆記試験準備に追われていたが、ようやく今日作業が終了したのだ。
「お疲れ様です。やれやれですね」
南が片手で肩を押さえながら首をポキポキ鳴らす。
「お疲れ様。これから忙しくなるからみんな今日は早く帰りましょう」
「はい」
久しぶりの定時あがりにウキウキしながら、葛城は一珂に『今日はバイト?』とメッセージを送った。すると、すぐにバイトだと返事が帰ってきた。
「葛城、飲みに行かないか?」
「悪い、先約があるんだ」
先約なんてないが一珂に会いたい、ただそれだけだ。
「そうか、またな」
「ああまた」
最初は普通に歩いていたが、はやる気持ちを抑えきれず小走りで駅に飛び込んだ。然程待たずに電車がホームに入ってくる。
一珂に早く会いたい。会って話したい。そして触れたい。
あー、完全に一珂不足だ。
今までは全く意識しなかったが、学生と社会人が時間を合わせる事はなかなか難しい。
付き合ってから10日、やっと本物の一珂に会えると葛城は浮かれていた。
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