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何度か通っている場所なのに、時間が早いと全く違う所のようで落ち着かない。歩いている人も夜とは違い、学生や主婦、仕事帰りのサラリーマンが目立つ。
本当に果物屋だったんだと変な所で感心する。
「葛城さん?」
店に後一歩という所で、愛しい人がぽかんと口を開けていた。
「もしかして、課長さんのお供ですか?」
「いや、仕事が早く終わったからイチに会いに……」
ダメだ、恥ずかしすぎる。
目を伏せた葛城の耳が小さな音を拾った。
「嬉しい」
ハッと顔を上げると、真っ赤な顔の一珂が口を押さえて葛城を見つめていた。
「イチ……」
「嬉しいです。俺も、葛城さんに会いたかったから」
「うん」
恥ずかしすぎて言葉が続かない。こんな時森沢だったらもっと上手く気持ちを伝えられるんだろうなと落ち込むが、俺は俺なんだから仕方がない。
「そうだこれ……」
葛城は鞄から小さな袋を取り出して一珂に渡した。
「開けていいですか?」
「もちろん」
袋の中にはティアドロップ型のピックが入っていた。
「昔俺のピックカッコいいって言ってくれただろ?これ、父親の店のオリジナルなんだけど、良かったら使って」
「葛城さんとお揃い?」
「厚さは違うが、まあそうだな」
「ありがとうございます。大切にします」
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