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一珂は袋ごとピックをぎゅっと胸に抱いた。
「大事にするより使ってくれた方が嬉しい。ピックは消耗品だ。ダメになったら、今度は2人で買いに行こう」
「はい」
可愛い、可愛いすぎる。
抱き締めたいという衝動を、理性を総動員して必死で止めた。
「バイトは何時まで?」
「7時までです」
「待っててもいいかな」
「はい」
「それじゃあ、7時前に迎えに来る……」
「一珂」という声に邪魔されて最後まで言うことが出来なかった。
「お客さん来てるよ」
「本当だ」
パタパタと走る一珂を笑顔で見つめていると。
「何かお探しですか?」
なんでこいつがいるんだ?
てっきり一珂1人だと思っていた果物屋に真山がいてすごくびっくりしたが、表情には出ていないはずだ。長年培ってきた無表情をなめんなよと真山に変な対抗意識を燃やしつつ
「いや、客じゃないので」
少し冷たく言い放つ。
とりあえず出直すか。にこやかに接客する一珂の姿も見られたし、緑のエプロンも似合ってるし、早めに来てよかった。
後ろ髪を引かれながら店を出ようとすると、「あの」と声がかかる。
「たまに歌を聞きに来てる人ですよね?」
「ああ」
「一珂とはどんな関係なんですか?」
「君に言わないといけないのか?」
「はい。一珂は俺の大切な親友だから」
「なるほど。俺は一珂の仲間だよ」
一珂の許可なしにこれ以上言うわけにはいかない。
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