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「ありがとう。重さはそうでもないんだけど大きくて持ちにくいんだ」
「これ、何ですか?」
「空気清浄機。うち禁煙にしてないから」
最近禁煙の店が増えてきたが、バーではそうはいかないのだろう。色々な客のニーズに応えるのは大変だ。
「お店まで運びます」
「悪いね」
「すぐそこだし、大丈夫です」
店の隅に空気清浄機を設置しスイッチを押すと、ブーンという低い音と共にランプが点灯した。
「今は空気汚れてないみたいですね」
こんな所にもAIが搭載されていて、空気の汚れを判断し色で表示するらしい。
「こんな隅でいいんですか?」
「うん。いつもこの端っこの席に座ってタバコを吸う奴がいるからね」
その客と親しいのだろう。風早にしては珍しく乱暴な物言いだが、愛情を感じる。
「コーヒー入れるよ。それとも酒がいい?」
「この後イチ……森沢と会うので、コーヒーお願いします」
「森沢君のバイト待ちなんだね」
「……はい」
ふと真山の顔が浮かびため息が漏れる。
「どうしたの、何か心配事?」
「心配事というか…すみません、何でもありません」
そう、何でもない。ただ、一珂と真山が一緒にいるのを見て心がざわついただけだ。
真山に関係を聞かれた時、恋人だとはっきり告げていればこんな風にモヤモヤしなかったのかな。
だけど、と葛城は確信する。
自分の選択は間違ってない。
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