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店の壁にかけてある古びた掛け時計が7時になった。
「そろそろ閉店?」
真山に聞かれて一珂は自分の腕時計を真山に示した。
「あと10分で閉店だよ」
「え、この時計って10分も違ってるのか?」
「うん」
「直してやろうか?」
「いや、これはこのままでいいんだ」
この時計が早いのはわざとそうしているからだ。学生時代運動部に入ってたおじさんは10分前行動が身に付いていて、遅刻しないように時計をわざと10分前に合わせてるらしい。
首を傾げている真山におじさんの事を教えてやると、「おじさんて10分早い時計の10分前から用意しそうだな」と真山が可笑しそうに笑った。
「当たり」
「え?」
「当たりだよ。おじさんこの時計の10分前に行動するから、9時40分に開店して、閉店も10分前なんだ。おばさんはきっきり10時から19時店を開けるけどね」
「まじか…」
「まじだよ」
冗談で言ったつもりが本当だったと知り、真山がポカンと口をあけた。
「なんか色々アバウトなんだな」
「まあ、それが自営業の良い所だよね」
笑いながら一珂は外したエプロンを丁寧にたたみ、真山の物と一緒に重ねてレジの机に置いた。
「今日はありがとう」
「暇だったし、役にたてたなら嬉しいよ」
はぁ、こんな時までイケメンだ。
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