fff《フォルティッシッシモ》

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「本当に助かったよ、でも……」 一珂ははぁと大きなため息を1つついた。 「何か不満そうだけど?」 一珂の考えてる事なんて全部お見通しとばかりにニヤリと笑う真山の背中を一珂は平手でパシりと叩いた。 「いてて、骨折れたかも」 ほとんど力を入れていない筈なのに、真山は大げさに痛がってみせる。 「そりゃ大変だ。急いで駅前の動物病院に行こう」 本気で真山の手をぐいぐい引っ張ると、 「腹痛いからやめて。なあ、せめて人間用の医者に連れていってくれよ」 「それは無理だよ」 「何でだよ」 ひとしきり笑った後、真山が表情をすっと戻した。 「で、一珂は何がそんなに不満なの?」 「不満?」 「バイト中、ずっと不機嫌だっただろ」 言われて初めて表情に出てたのかと気づく。 「不満っていうか……あんなにあからさまに差をつけられたらさすがの俺もへこむよ」 真山がいるだけで女性客の数がいつもの倍に伸び、それに伴って売り上げも大幅に伸びた。店の事を考えるとありがたいのだが、男としてはちょっと……いや大いに複雑である。 「手伝いに来ない方が良かったか?」 「いや、それはない。一緒に働けて嬉しかったし、助かった」 「それならいい」 真山は一珂の頭に手を置き、くしゃりと柔らかい髪を撫でた。 「帰ろうか」 「うん」 店から出てシャッターを降ろす。 「腹減った。一珂、これから飯でもどう?」 「あ、ごめん。ちょっと用事があって……」 「用事?」 一珂が頷くと、真山の目がわずかに細められた。 「ごめん。今度付き合うよ」 「……いいけど。用事ってさっき来た人だよね。一珂と仲間だって言ってたけど、どういう人?」 答えてくれないかもしれないと思いながら訊ねると、一珂は勢いよく真山の袖を掴んだ。 「仲間って、葛城さんが言ってたの?」 「………ああ」 バンドを組んでから7年も経つのに葛城がまだ一珂を仲間だと思っていてくれるのが嬉しすぎて、思わず真山に抱きついた。 すると。 「イチ……」 ザリという砂を潰すような音と共に、低い声がすぐ後ろから聞こえた。
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