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一珂が葛城の前で酒を飲んだのは一度だけだ。
フワフワして気持ちよかったのは覚えているが、まさか送ってくれた葛城にため口を聞いていたとは。
「すみませんでした」
「謝る必要なんてない」
葛城が一珂の髪をくしゃりと撫でた。
「年上でおまけに兄の友人だから気を使うだろうが、俺達恋人なんだから対等でいいと思うんだ。酒に酔ったイチは素直で甘え上手でめちゃくちゃ可愛かった。もちろん普段のイチも可愛いけどな」
「……ありがとうございます、って可愛くないですから」
「じゃあ俺も可愛くない」
「でも……じゃあ可愛いでいいです」
「上目遣い、ヤバ……」
頭を往復していた葛城の手がするりとおでこまで滑り前髪をかきあげる。精悍な顔がぐっと近づくと動悸が激しくなり一珂が思わず目をつむった瞬間おでこに柔らかい物が押し当てられた。
びっくりして開けた目に飛び込んできたのは少し潤んだ瞳と赤く染まった顔。
「案外恥ずかしいもんだな」
「俺の方が恥ずかしいです」
「確かに」
「確かに、じゃないです。だからお返し」
腕を引き、伸びをして葛城の頬にキスをした。
一珂の頬が葛城以上に赤くなる。
「さあ、焼き肉行きますよ」
くるりと背を向けた一珂を葛城が慌てて追いかける。
「待てよ」
「待たない」
「こんな時だけ、ため口…」
「………」
「ごめん」
1時間後。
甲斐甲斐しく一珂の肉を焼く葛城が見られたのは内緒の話。
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