393人が本棚に入れています
本棚に追加
リクエスト曲は文化祭でやった曲。唯一オリジナルで作った曲だ。
歌詞を森沢、曲を一珂が担当し、葛城がアレンジを加えた。一珂らしい優しい曲が葛城のアレンジで強さを秘めた曲に変わってしまい……。
「やっぱり、元の曲の方が」
曲そのものの印象を変えてしまったのに恐縮する葛城に、「絶対今の方がいい」と一珂が断言したため葛城のアレンジした方に決定した。
「これは2人の曲だから」
「そうだな」
1人でいた葛城にとっての初めての仲間に対する思いを沢山詰めこんだ特別な曲、一珂の想いを汲みそれに葛城の想いを混ぜ合わせた唯一無二の大切な曲だ。
ギターを構えた葛城が照れたように一珂を見る。
「ハッピーバスデー、イチ」
少し上ずった声で告げた彼が視線を手元に落とすと、骨ばった長い指が優しいメロディーを紡ぎだす。
ただ優しいだけじゃない音色を聞いていると次第に勇気が沸いてくる気がする。思春期独特の不安定さの中に夢や希望を盛り込んだこの曲は、聞くもの全てを虜にする力を持っていた。
「やっぱりすごい」
言葉では言い表せない感動と興奮の渦に飲み込まれた一珂は、いつの間にか涙を流していた。
ずっとずっと求めていたものを与えられ、嬉しくて涙が止まらない。
「イチ、大丈夫か?」
優しく問う葛城に、止めないでと首を振りながら一珂が懇願する。
「分かった」
葛城が一珂を包み込むように柔らかく微笑み、再び演奏を始めた。
最初のコメントを投稿しよう!