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良かった、本物だ。
フフと笑う一珂を葛城が不思議そうに見つめる。
「こうやって葛城さんと一緒にギターが弾けるなんて、何だか夢みたいで」
「ああ、確かに。じゃあ、夢じゃないか確かめてみようか」
葛城が一珂の頬をゆるくつねる。
「もう、自分の頬をつねってくださいよ。……痛いなぁ」
一珂が軽く睨み付けると葛城がプッと吹き出す。
「夢じゃなくて良かったな」
「………はい」
ゆるくとはいえ、つねられるとじんじんする。
少し赤くなったと葛城に頬を優しく撫でられると、触れられた頬が熱を帯びてより一層赤面する。
こうなったら恥ずかしいついでだと、一珂はずっと聞きたかった疑問を口にした。
「ステージで緊張してる俺を葛城さんも励ましてくれましたよね」
「……みんなが励ました後だけどな」
「あの時の葛城さんが誰に対してよりも優しく思えて、それがずっと気になっていて、もしかしたら俺の事を特別に思って……あ……」
急に恥ずかしくなって言葉を切る。
葛城さんが俺にだけ優しかったのは何故ですか、俺を特別に思っていてくれたんですか、なんて聞ける訳がない。自惚れすぎだ。確かに恋人になった今は特別に思ってくれているかもしれないが、あの頃は単なる同級生の弟でしかなかったはずだ。優しい葛城さんが、みっともないほど緊張している中学生を励ましただけなんだ。
甘いと感じた葛城の言葉は、一珂を子供扱いしていただけなんだ。
バカだな。こんな事にも気づかず、ずっと誤解していたなんて。
好きだと感じていたのは、葛城ではなく一珂だ。葛城を好きだと認めるのが怖くて気持ちがずっとモヤモヤしていたんだ。
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