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「ここが使用人の部屋だよ。
荷物は適当にそのへんに置いて。
モタモタするんじゃないよ。今日から早速働いて貰うからね!」
「は、はいっ」
女中頭の小岩井さんという、50歳くらいのおばさんに案内してもらった
広い畳敷きの部屋の隅に荷物を置くと
着替えもさせて貰えないままに仕事を言いつけられました。
箒とちりとりを渡され、広い玄関ホールを掃除するように言われ
僕は早速作業に取り掛かりました。
大きなお屋敷には20人程の使用人がいるらしく
その半数が僕と同じく住み込みで朝から晩まで働いているようです。
これから長くお世話になるので、大旦那様にご挨拶を、と申し出たのですが
一ノ瀬財閥の大旦那様は、このお屋敷には殆ど戻られないようで
ご挨拶は次の休暇に戻られたときでいいと
小岩井さんに言われました。
「ほうきでゴミを集めたら、雑巾で拭くんだよ!
塵一つでもあったら全部やり直しだよ!
そんな小鹿みたいな弱々しい目で見たって容赦はしないよ?!」
掃き掃除が終わってホッとしているところに小岩井さんが現れ、言い放たれて
僕はバケツに水を汲みに、裏の井戸へと向かい廊下を急ぎました。
長くて美しい洋風の廊下です。
綺麗な格子が挟まった腰窓
その向こうには綺麗なバラのアーチと
とても綺麗に手入れされた広い、緑と光の溢れる庭が見えました。
まるで写真のようです。
つい足を止めて、開いていた窓からその初めて目にする美しい風景をウットリと見ていたとき
その風景の中に人影があることに気付きました。
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