1話 暖かな春の日に

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美しいバラに囲まれた光と緑の満ちた場所。 その中に佇む、手足の長い美しい立ち姿。 時折見えるその目鼻立ちの整いすぎたその、微かに微笑む横顔は この世のものとは思えない気品と上品さ、慈愛に満ちた美しさがあって…… ーーーー天使だ 呆気に取られながらも、僕は 天使を見てしまったと、興奮と感動に全身がブルリと震えて 手に持っていた、空のバケツを床に落としてしまいました。 派手な音を立ててバケツが床に転がりました。 あわわわわ。怒られるッ!! 大きな音に、一瞬にした我に返り 慌ててしゃがんでバケツを拾いつつ、またしてもどこかから 小岩井さんの怒鳴り声が飛んで来るんではなかろうかと 無意識に肩を竦めていました。 するとです。 「……誰?」 おばさんの恐ろしい怒声ではなく、ふわりとした、美しい声が バケツを抱え込み俯いてた僕の頭上から降ってきました。 びっくりして顔を上げると 「ひゃっ!!」 開け放されていた腰窓から天使が僕のことを見下ろしているではありませんか。 更にびっくりして変な声が出ちゃいました。 「だから、誰?」 「あっ、あのっ、そのっ、ぼ、ぼ、僕はそのっ  きょきょ今日からこちらにお使えすることになりました  い、いく、生田サトシと申しますッ!天使様ッ!」 「天使様?」 「ひいいいいい。こんな下僕が天使様にお声を掛けてしまいましたゴメンナサイですッ!!」 恐れ多すぎて、僕は抱き抱えていたバケツを横に置き 廊下にひれ伏すように土下座しました。 「生田サトシ、か。お前、面白そうなヤツだな」 「申し訳ございません!」 「プルプル震えて。顔も小鹿みたいだけど、そうやって縮こまって震えてると  生まれたての小鹿みたいだな」 「すみませんすみません」 いい加減自分でも何で謝ってるのかわかんなくなりつつ とにかく謝っているとです。 「生田サトシ。今日からお前を俺の世話係にする。  今から俺以外のヤツの命令に従うな」 「へ?」 「貴様は俺だけの下僕だ。わかったな」 天使様の下僕??僕が??? 「わかったら返事をしろ!この下僕がッ!!」 「は、はいいいいっ!!」 そうして僕はわけもわからないままに 気が付けば天使様の専属下僕になっていたのでした。
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