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桃仁は、元服と同時に従五位上を賜っている。飛馬別寮の長官は従五位下なので、桃仁は上司を上回っている。それを揶揄してついた呼び名が「飛馬の五位」である。
「気にしてるのは、東宮と自らのことであろう」
一宮の含み笑いに周りの女たちも追従する。
女東宮は十六になる。王の長子であり、母后は大将の女である。
婿がねとして筆頭で名前が挙がっているのが中将太澪、飛馬の五位である。王孫である大臣の同母兄弟で家柄は申し分がない。中将は女東宮の手習いの師であり、桃仁は兄の使い走りで幼いころから宮中に出入りしていた。女東宮は両者を憎からず思っているようである、と人は口の端にかける。
「五位は女教授を好いているのだろう?」
「さあ……存じませんが」
桃仁が椋ノ葉と親しいのは周知だ。
長身細身の彼女は騎乗用の刺子を着こんでも姿がよい。人馬一体で空を駆る様子のみならず、宮中でも見ないほどの美形で絵姿が出回っている。人より飛馬が好きという女で、小柄な桃仁と色恋の雰囲気はない。
「紫重が五位を射止めれば、母は褒めてくれるかもしれぬぞ」
猥雑な笑い声がさんざめくのに、紫重はため息をつく。
「弓矢で射ることは自信がございます」
わざわざ額面通りに切り返し、しらけた女たちの前を辞去した。
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