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「もう、分かったから」
その声には、もうさっきの恥ずかしさ的な動揺はなかった。いつものクールで、抑揚のあんまりない澄んだ声。
ゆっくりと上げられた顔を見ると、さっきの慌てふためく真っ赤な顔が嘘みたいに、いつものポーカーフェイス。
す、凄いな…確かに落ち着かせなきゃとは思ってたけど、ここまで表情変えられるもんか…?流石相川さんとしか、言いようがない。
「そ、そっか。なら、良かったけど」
いつもの相川さんに戻ってくれたことに、取り敢えずホッとする俺。けど思い返しても、さっき自分がベラベラ何を喋ってたのか良く思い出せない。
というか必死過ぎて、覚えてない。けどまぁ、あれだけ動揺してた相川さんをここまで元通りにできたんだから、変なことは言ってない筈。多分。
目の前の相川さんが落ち着いてくれたことで、馬鹿みたいに煩かった俺の心臓の音も、少しはマシになった。相川さんは、ただ黙ってベッドに腰掛けてて。
「え?もしかしてさっきの照れ相川さんは、俺の願望が見せた幻か?」と疑いたくなる位、無表情だった。
「あ、あの…相川さん」
何か、声掛け辛い。
「何」
こっちを見ない相川さん。視線は真っ直ぐ、ドアの方にある。
「い、いや…何でもない」
「あっそ」
その一言だけ口にして、相川さんはまた黙る。相変わらず、視線はずーっとドア。
…そんなに、出たくなったのかな。
そう考えると何か、何とも言えない気持ちになった。さっきまでは、あんなにいつもの相川さんに戻って欲しいと思ってたのに、戻ったら戻ったで何かしっくりいかない。
…ていうか、寂しい。
いや、バカなこと考えるんじゃない俺。あのまま照れ相川さんだったら、可愛すぎてーー
…い、いや、可愛過ぎてって何!?俺何言っちゃってんの!?そもそも相川さんはいつも可愛いし!学校でも噂される位美少女だし!
や、それはそうなんだけどその可愛いとはまたちょっと違うっていうか…容姿的な可愛さとかじゃなくて、何ていうかこう……
…だ、ダメだ!もう俺は、完全にダメだ!腐った!煩悩まみれの最低野郎だ!頼むから、土下座でも何でもするからもうドア開けて…!!
俺の切なる願いが届いたのか、相変わらずドアの方見てる相川さんの願いが届いたのか、ドアの向こうでなにかの音がして、それからゆっくりドアノブが動いた。
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