第九章「女心を教えてください」

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電話してた時間は、多分三分もない。けど俺にとっては、物凄く長い時間に思えた。スマホを握ったままの手が、ブランと力なく下がる。 「相川さん…」 小さく呟くと、騒ついていた胸の奥が一層ザワザワと騒ぎ出す。どうしよう、俺どうすれば良いんだろう。 普通なら、あのお兄さんと話せたことに小躍りしながら喜ぶけど。今はとてもそんな気にはなれない。 気にするな、ってのは到底無理な話。お兄さんもそれが分かってたからこそ、あんなに何度も謝ってたんだろう。 けど、相川さんとはあの日以来会ってないし、連絡も取ってない。その前の会話や彼女の様子を思い浮かべても、特に変わった様子はなかったように思える。 さっきのお兄さんの話では、相川さんはここ最近ずっと元気がないように見えた。で、今日誰かと電話で言い合いみたいなことしてたと思ったら、携帯も持たずに急に家を飛び出した。そして、今。 …相川さんと言い合いしてた人は、誰だろう。相川さんは正直、学校でも評判は良いとは言えない。だけど、だからって特定の誰かと連絡交換してまで言い合いするような、そんな相手が居るだろうか。 いや、俺が知らないだけで相川さんにもそんな相手が居るのかもしれない。真凛が彼氏のことを心配して飛んでいったように、もしかしたら相川さんもそんな状況になっちゃったのかもしれない。 そう考えたら、ザワザワしてた胸がチクチクに変わった。何となく、今相川さんと一番仲が良いのは俺だって。勝手に思ってたから。 …でも仮にそんな相手が出来たなら、元気ないってのは何だろう。お兄さんは、部屋から出てこないって言ってたし。 …うぅ、ダメだ。俺の小さい脳みそで幾ら考えたって、何にも分かんない。 分かんない。アテもない。嫌がられるかもしれない。フラれる前に、砕けて散るかも。けど今は、そんなこと全部、どうだって良い…! 相川さんを、探しに行こう。それにはまず、理人と瑠衣に謝らないと。 ケータイをポケットに仕舞って、ゲーセンに戻ろうと踵を返す。ちょっと駆け出した所で、すぐに瑠衣を見つけた。瑠衣も、入り口辺りをウロウロしてたみたいだ。俺に気付くと、笑顔で駆け寄ってきた。 「南!電話、終わった?」 「あ…うん」 真凛に続いて、俺まで。しかも俺は、真凛と違ってキチンと理由を説明できない。
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