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「ねぇ、南。これからさぁ」
「ご、ごめん瑠衣。俺…」
「どうしたの、何かあった?」
さっきまでの笑顔が、途端に俺を心配するような表情に変わる。
「いや、俺…ごめん!ちょっとどうしても今すぐ行かなきゃいけない用ができちゃって…ごめんっ」
勢い良く、頭を下げる。折角楽しく遊んでたのに、瑠衣の気持ちを考えたら本当に申し訳なくなる。
「…もしかして、相川さん?」
瑠衣の口から出るなんて予想してなかったその名前に、思わず顔を上げた。多分、これ以上ない位驚いた顔してる。
「…当たり?」
寂しそうに、少しだけ笑う瑠衣。掛ける言葉に、戸惑う。
「い、いや…違う。違くて…っ」
実際、違わない。けど胸を張って、そうですとも言えない。
「…良いよ、言ってみただけ」
寂しそうに言う瑠衣の手には、さっきのクマがしっかりと握られてる。
「る、瑠衣…あの…」
俺が戸惑っていると、瑠衣は一瞬だけ下を向くとすぐにパッと顔を上げた。その表情は、いつもの瑠衣の明るい笑顔だ。
「変なこと言っちゃって、ごめんね!急用なんでしょ、大丈夫だから行って!」
明るい、声色。
「あ、あの…瑠衣…」
「理人には私から言っとくから!ほーら、早く行ってこいっ」
俺の肩を掴んでクルリと前を向かせると、瑠衣は軽く背中を押した。
「じゃあね、南!楽しかったよっ」
背中越しに聞こえる瑠衣の明るい声に、俺は安心する。一回振り返って「ごめん瑠衣、本当ありがとう!」と力強く言うと、そのまま駆け出していった。
「…行かないで、南…」
「聞こえる訳ないだろ、そんな声で」
「…理人、いつから居たの」
「お前らの寒いやり取り、ずーっと見てました。気付けよ」
「理人なんか、目に入りませーんだっ」
「だろうな、お前は」
「…バカ」
「行くぞ」
「え、二人で?どこに」
「ケーキ食べ放題。行きたいんだろ?」
「何で分かるの?」
「お前の間抜けズラ、見てたら分かる」
「…理人のバカ、間抜け、チャラ男」
「ウルセ。ごちゃごちゃ言わずに行くぞ」
「ちょ、痛っ!引っ張らないでよバカっ」
「…バカは、お前だよホント」
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