第一章「可愛いは嫌なのです」

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「渥美ねぇ、アレ貸して!アレ!」 俺は興奮気味に、三女の部屋のドアを開けた。開けた後でドアをノックしていないことに気が付いたけど、そんなことは今はどうでも良い。 「南…ノックは?」 どうでも良い、とは言ったけど般若のような顔で俺を睨みつける三女、渥美(あつみ)ねぇの姿を見てすぐに後悔した。 この顔で睨み付けられた俺が、渥美ねぇに勝てたことは今まで一度もない。最も、普段でも勝てたことなんてないけど。 「あ…ご、ご、ごめん!次は気を付けるから!」 俺を睨む渥美ねぇを宥めるようにヘラヘラ笑う俺。心の中では「うっせぇ、くそブス!」と悪態吐いてはいるが、まぁノックをしなかったのは俺なのでそこは素直に反省しよう。 「何?私忙しいんだけど」 ブスッとしながら言う渥美ねぇは、ただベッドに転がってスマホ弄ってるだけ。それのどこが忙しいんだ、ただ面倒なだけだろ。 そんな感情は一ミリも表情に出さない大人な俺は、ニヤニヤしながら渥美ねぇに近付いた。 「…キモいんだけど」 「渥美ねぇ、アレ貸して」 「は?アレって何よ」 「こないだ読んでたじゃん、リビングで」 ニヤニヤ顔で両手を差し出して頂戴ポーズ、渥美ねぇは未だベッドに寝転がったまま。本当だらしない、良いのは外ヅラだけだ。 「意味分かんないんだけど」 「読んでたじゃんか!リビングで読んでたじゃんか!俺にもアレ貸してよ!渥美ねぇ読んでたじゃんか!」 壊れたように同じ言葉を繰り返す俺に、渥美ねぇは若干引き気味。伝わらないのがもどかしくてイライラする。
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