第三章「奇妙な関係」

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昨日、というか今日の朝まで読んでたあの漫画に出てくる、ヒロインの相手役。御曹司で生徒会長で長身イケメンでドSの、世の中の女子の理想像「伊集院帝(いじゅういん みかど)」様。 勿論帝様は漫画の中だけの人物、幾ら馬鹿な俺でもそれくらいは分かる。いや、分かってたはずだった。 けど今、俺の目の前には紛れもなくあの帝様が立ってる。そんで、相川さんと喋ってる。 「帝様だ…」 「は?」 その男の人を目を見開いて見つめる俺に、横に居る相川さんが訝しげな声を上げる。 「帝様!帝様が居る!あの、あの漫画に出てくる帝様だ!ねぇ相川さん!帝様が居るよ!!」 興奮気味に相川さんの肩を掴み、ガクガクと揺さぶる。興奮し過ぎて、相川さんが足を怪我していることを忘れていた。 「ちょっ、何?痛いんだけどっ」 急に豹変した俺を押し返しながら、眉間にしわを寄せる相川さん。 「あ、ごごご、ごめん!足痛かったね!」 慌てて相川さんから手を離す。幾ら興奮したからって、俺は怪我人に何てことを…! 「いや、足は大丈夫だけどさ。急に何なの」 どうやら相川さんが痛かったのは、掴んだ肩の方だったらしい。どっちにしても、ごめんなさい。 「小花…何?」 不意に聞こえた、低い声。俺も男だからそれなりに声は低いんだろうけど、そういうんじゃなくて。如何にも「男」て感じの、低音ボイス。不思議と怖い感じはしなくて、女の人が好きな声ってこんな感じなんだろうなって勝手に想像した。 「何だろ、分かんない」 「は?」 「まぁ、一緒に待ってくれてたのは確か。頼んでないけどね」 辛辣な一言と共に俺に一瞥をくれる相川さん。その言い方、身もフタもないんですけど。
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