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宿屋の一夜
友人二人とバイクでツーリングの道すがら、飛び込みの宿に泊まる事に。
通された部屋に入ったとたん、Sは真剣な顔つきで室内をチェックしはじめた。飾られた掛軸の裏、壺の底、押し入れの天袋。ガラスケースに入った日本人形は、
「苦手なので……」
と言って、わさわざ宿の人に頼んで部屋から移動させてもらった。
「おまえ、意外にビビりなんだなぁ。幽霊封じの札が貼ってあったり、人形が動いたりするとでも思っているのか?」
もう一人の友人Mがひやかすと、
「何かあった時の方が嫌だろ? 安眠の為の用心。先手必勝だよ」
Sはこれが普通だとばかりに、淡々と答えた。
食堂でお世辞にも豪勢とは言い難い夕食を取ったあと、実家の風呂場に毛が生えたほどの広さの浴場で交代に湯船に浸かった。
寝床の用意も、当然のようにセルフサービスだった。薄いくせにやけに重い布団を三枚、川の字に並べていると、今度はSは枕を叩いたり振ったりして、
「……危ないな、コレは」
などと、渋い顔で呟いた。
「コレのどこが危ないんだ?」
昔ながらの蕎麦殻の枕。確かに、枕投げなどに使ったら怪我をしそうな重量感はある。
「聞いたことないか? こんな噂」
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