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「そうか。じゃあやっぱり俺も一泊するとしようかな?」
「へぁっ!?」
思いも掛けないSの発言に妙な声を発してしまった俺に、『任せておけ』とでも言いたげにSは目配せをしてくる。
「取り敢えず、せっかくだから近場を流そうよ。少し走って、またここに戻ればいい」
三人で宿を出て、山道を走った。Sの提案で、硫黄の臭いが強烈な日帰り温泉に入り、にんにくが大量に入ったラーメンを昼飯に選んだ。Sは立ち寄ったコンビニで購入した消臭スプレーを、間違えたふりをして何度もMに降りかけ、休憩所では吸わないはずの煙草をふかし、その煙をMに吹きかけるなどの奇行を繰り返した。
そろそろ日が傾き始めた頃、Sが言った。
「M、どうする? 宿に戻るか?」
もちろん同意するだろうと思っていたMは、目を丸くして、
「は? あのクソな宿に? 冗談よせよ。今日は東京に帰る予定だろ? あー、家のフカフカのベッドが恋しい」
いつも通りの口調で言い放ち、心底俺は安堵した。
「聞きかじった方法をダメもとで試してみたけれど、どうやら利いたみたいだね」
Sがこっそり俺に耳打ちした。硫黄の風呂も、たっぷりのにんにくも、消臭スプレーに煙草の煙も、みんなあのMを操っていた『虫』を追い払う手段だったらしい。
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