一幕 ①潁川郡防衛戦 序の曲その一

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 一八四年、三月一日。  (こう)()(すう)(しゅ)(しゅん)率いる三万の官軍は、(らく)(よう)(じょう)を進発した。  皇甫嵩、朱舜の両名は、(れい)(てい)(りゅう)(こう)から直々に言葉を賜り、拝礼をした際には、霊帝が組んでいる手を握り込むほどの礼を受けた。  劉宏がしょっちゅう軍議に顔を出すせいで忘れがちになるが、帝とは至尊の存在だ。  顔を見ることが一生の内に一度あるかないか。そのような天上の存在に手を握られる。  その現場を見た兵たちは、自分たちを指揮する将軍が天上人と触れ合っていることに誇らしさを感じることとなった。  城門を出て、城下町の大通りを進む間に、その誇らしさは態度となって表れた。  そんな、胸を張り、威風堂々と行軍する兵たちを見て、市民は安心と信頼の表情を浮かべ、声援を送った。  そんな民たちからの声が、兵たちに自負をつくり、志気を上げる。  「う、うおぉぉぉ。陛下の思惑通りだろうと、さすがにテンションが上がるな」  「なんだ。普段のやる気のなさが嘘みたいだな。良いことだ」  先頭にはこの軍団の総大将である朱舜と、将軍の皇甫嵩がいた。馬に乗って並んでいる。  その後ろには三万の兵が続いている。  正確には、訓練中に三十人ほどが不慮の事故で死に、八十人ほどが脱走した。  しかし、半月の訓練を施した兵たちは、当初とは比べ物にならないほど、練度があがっていた。  皇甫嵩と朱舜は互いの兵を一日おきに交換し、それぞれのやり方で訓練を行った。  皇甫嵩は主に走り込みをさせて基礎体力の向上を促し、朱舜は軍団として動く際の連携や陣形の構築を受け持った。  実戦を知る皇甫嵩からしてみれば、漸く新兵並み、といった評価ではあるが、及第点となった。
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