0人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなに怖い話じゃないんですよと前置きして、Fさんは話しはじめた。
わたしの父が先月亡くなりまして、そのお葬式のことなんです。父と父方の親類は昔から折り合いが悪くて、葬儀の進行や内容でも喪主に――わたしの弟なんですけども――色々と文句を言ってきましてね。心底、来てほしくないと思いながらもそこは親族でしょう、呼ばざるを得なくて。
わたしの母は葬式が終わったらすぐにあの人たちと縁を切る準備をしていたんですけどね、まあ、葬式だけは何事も無く穏便に済ませたいと思っていたわけで、弟やわたしもそれには同意見でした。
幸い、通夜も葬儀も、滞りなく終えることができました。父の前で見苦しい争いを見せるようなことはありませんでした。
父方の親類は、わたしたち家族を最初から最後まで無視していたんですけどね。
無視ですよ。すごいでしょう? 大人げないというかなんというか、古希を過ぎた人間の態度じゃありませんよねぇ。
よっぽど、骨は海に撒いてほしいと言っていた父の遺言を果たそうとするわたしたちが気にいらなかったんでしょうね。
奇妙なことが起きたのは、骨壺を抱いて自宅に戻ってきて、わたしが喪服のジャケットを脱いだ瞬間でした。
足元の床がバチンと鳴ったので見てみると、真珠のネックレスが落ちているんです。
今の今まで、わたしがつけていたものです。
父の母……わたしの祖母が幼いころにくれたんです。ちゃんと本物ですよ。確か、小学校に上がる前くらいですから、そんなものを小さな子にくれてやる祖母を奇妙に思ったものでした。
金具は壊れてもいないし傷んでもいません。
ひょっとして、ネックレスは精根尽き果てて首から落っこちたのでしょうか。祖母が、恙なく式が終わるように、頑張って見張っていたのではないか……そう思うようにしました。
愛する息子の葬儀をめちゃくちゃにしたくはなかったんでしょう、とね。
まさに魔除け、ですね。でも、わたしはこれを母の葬儀にはつけていくつもりはありません。
だって、ねえ。
そもそも、元をただせばこのドロ沼はあなたのせいですから。
ね、おばあさん?
最初のコメントを投稿しよう!