プロローグ:珍妙な客

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プロローグ:珍妙な客

 フラウ王国の街外れにひっそりと佇む冒険者ギルド、“プランタン”。今ではただの酒場と化したこの店に、すっかり常連となったこの男、ダイアンは二週間ぶりに顔を出した。 「久しぶりだな、ダイアン」 「おうよ。狸親父も元気だったか?」  狸呼ばわりされたこの店のマスターは、あからさまに「チッ!」と舌打ちすると、ダイアンの座ったカウンターテーブルにコースターを置いた。 「いつものでいいな?」 「あぁ。あとコイツに、この店で一番キツい酒を頼む」  そう言われてダイアンの目線の先を見ると、隣の席に黒くて小さな物体がちょこんと座っているのに気付いた。 「こいつは何なんだ? 大きさは猫のようだが……」 「モンスターだ」 「モンスター!?」  素っ頓狂な声をあげたマスターは、腰を抜かして尻餅をつく。確かに噂ではモンスターを手懐けて仲間にする冒険者もいると聞くが、そんな芸当が出来るのはほんの一握りの上級冒険者だ。モンスターと呼ばれる生物は基本的に獰猛で、人間に手懐けられるものではない。 「本当に大丈夫なのか? そいつぁ」 「あぁ。俺には……懐かないが、人間を傷つけるようなことはしないと思うぜ」  そう言うダイアンをよく見ると、顔や首、大きく開いた胸元のそこかしこに、このモンスターの爪痕らしき引っ掻き傷がある。本当にダイアンにだけ懐かないのか心配になる程だ。  マスターはカウンターの酒瓶越しから恐る恐るモンスターを覗き見る。雪だるまのような体型をしており、全体は黒い毛、顔と腹は薄茶色の毛で覆われている。そして頭部に小ぶりで丸い耳が二つと、お尻ににょろりと長い尻尾が生えており、手足は短いがその代わり爪が鋭く長い。 「いやでもよく見ると……つぶらな瞳をしてるし、可愛いなコイツ」  マスターがそう言った瞬間、モンスターは短い両手で両目を覆って、頭を左右にブンブンと振った。 「何してんだコイツ?」 「マスターが『可愛い』って言ったから照れてんだろ」  出されたテキーラを飲みながらダイアンが言うと、モンスターはグラスを持つ彼の腕をガリッと引っ掻いた。 「痛てっ!!」 「本当にお前、コイツに嫌われてんだな……」
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