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般若とアザミの名を混ぜこぜに呼ぶ癖のあるマツバが、言葉の途中で、まさに濡れ場の最中であったアザミたちの姿に気づき……手に持っていた小箱を放り投げて、悲鳴を上げた。
彼のたおやかに整った顔が、見る間に赤くなってゆく。
「し、し、失礼しましたっ」
裏返った声で、そう叫んで。
マツバが慌ただしく部屋を出て行く。
男娼なんて仕事をしているくせに、ずいぶんと初心な反応だな、とアザミは彼の慌てふためいたその後ろ姿を眺めて思った。
くくっ、と肩を揺らして笑いながら、アザミは男の胸板を押した。
「続きはまた夜だね。怪士」
アザミがそう言うと、怪士は唾液で濡れたアザミの乳首を、名残惜しそうに見て……欲望で潤んだ瞳を、苦く歪めたのだった。
今朝は散々アザミにさびしい思いをさせたのだから、今度は怪士が困ればいいのだ。
少し意地悪な気分になって、アザミは乱れた着物を整え、飛び出していったマツバを追うべく立ち上がった。
「アザミさま……」
呼ばれて、怪士を見下ろすと、男の股間が膨らんでいるのが黒衣越しに見えた。
アザミの後孔が切ない疼きを訴えてきたが、アザミは元男娼。欲望をコントロールすることは得意なのである。
「ふ、ふふっ……お預けだよ、怪士」
淫靡な声で囁いて、アザミは般若の面で顔を隠した。
イチゴよりも甘い表情になっていることは、自分でもよくわかっているアザミであった……。
END
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