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中編
「これを……あなたに、差し上げたくて」
そう言った男の頬が、うっすらと赤らんでいる。
アザミは何度も瞬きをして、箱と怪士を見比べた。
男が促すように箱へと視線を向ける。
アザミはゆっくりとリボンをほどき、箔押しのシールをはがすと、箱を開いた。
中には、ケーキが入っていた。
イチゴがふんだんに乗った、生クリームのケーキだ。
「……これ……」
「イチゴのケーキが食べたいと、仰っていましたので……」
アザミは思わず、怪士を凝視した。
……そんなことを言っただろうか……。
一瞬、記憶を探る。
そう言えば数日前の……クリスマスイブのあの日に、言ったのかもしれない。
この淫花廓は非日常を演出するため、敢えて外界のイベントなどは取り入れないのだが、今年はとある客から本物のモミの木を使ったツリーが届いたため、ゆうずい邸の受付横に置いてあったのだった。
般若の役割には、ゆうずい邸の男娼見習いの教育も含まれるため、アザミがゆうずい邸を訪れる機会も多い。
そのため、そのツリーが目に入り……。
久しぶりに、イチゴの載ったクリスマスケーキが食べたい、と口にした覚えが……。
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