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雪国に住み、かつ中古車販売の仕事をしていれば当然に悪路には慣れている。
しかし、今日の雪はいつもと少し違っていた。
灰色の空からたたきつけるように振ってくる雪は、車を前進させるのを阻止しているようでもあった。
峠はさらに賢人に不安を与えた。カーブの先はまるで暗黒の地の底に堕ちていくような錯覚を覚える。それなのに曲がった瞬間は白い着物のたもとがひらひらと手招きしている光景に転じ、賢人は一種独特のスリル的快感を味わった。
それは人を虜にさせるあやかしのものにも思えた。
すんでのところで曲がり角を見逃しそうになり、はっと現実に戻り、ハンドルをゆっくり切った。
雪にうもれた一軒家は、すでに周りに雪下ろしをしたところがあったが、それでも赤い屋根の一部がなければ、ただの小山にしか見えなかっただろう。
ありがたいことに玄関には灯りが煌々と輝いていた。
暖かい空気とおばさんの声が車を降りたとたん、感じられる。
「おばさーん、こんにちは」
賢人が声をかけながらドアをたたくと、足音が聞こえドアが開いた。
「わーい、カネゴンだー」
くりくりとした目をした女の子が顔を出す。
「こんにちは。小雪ちゃん。寒いね」
「うん、上がって。ばあちゃん、今おでん作ってるの」
賢人は勝手知ったる家とばかりに雪を払い、スノーブーツを脱いで玄関を上がった。
「小雪ちゃん、ぼくを待っていてくれたの?」
「うん、カネゴン好きだもん」
女の子は片手に絵本を持っている。「ねえ、これ読んで」
「うん。いいよ。その前にお父さんにお線香をあげさせてね」
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