7人が本棚に入れています
本棚に追加
台所から続く居間にはテーブルが置かれ、湯気の立つ食べ物が所狭しと並んでいた。
「まあまあ、金子さん。こんな日に悪いねえ。明日でもよかったのに。明日は午後から雪は小降りになるというから」
おばさんはエプロンで手を拭きながらそう言う。
「いえ、おばさん。やはり今日でなければ。だって孝之の命日でしょう?」
「ああ、覚えていてくださったかね」そう言って目を潤ませ、和室の仏壇を見た。
「では、お線香をあげさせていただきます」
賢人はジャンパーを脱いで、仏壇に向かった。ジャンパーはすかさずおばさんが拾いハンガーにかけられ、鴨居に下げられた。
仏壇には年老いた男性の写真と若い男性の写真が2つならんでいた。
「孝之……」
年老いた方は父親で、13年前に他界したこの家の主だった。そして若い方は賢人のかつての親友だった。
孝之が死んだことに3年たってやっと慣れてきた。保育園時代から、高校まで、ずっと一緒だった親友。部活も一緒のサッカー部だった。あんなにも身近でまるで双生児のように育ち、いいところも悪いところもすべて知りつくしていた親友。その親友は突然にこの世を去ってしまったのだ。
「なあ、孝之。おれはまだ、ずっとずっと寂しいよ」賢人は心のなかで呟く。
最初のコメントを投稿しよう!