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 担任が戻ってきて、死んだように静まり返る教室に驚いて、何かあったのかと聞いたけれど、だれも何も答えなかった。だれもが起きたことを認識できなくて、ただ機械のように各々席について、黙りこくって日常が戻ってくるのを待っていた。  諾森の親が息子の不在に気づいたのは、それから五日も経ってからだったらしい。「いっつもいないから、てっきりまた夜遊びしてるんだと思っていた」という彼らは、けれどべつに憔悴することもなく、淡々と担任に、息子を見かけたら教えてくれと言っただけだった。  深刻な顔で、何か知っていることがあれば教えるように、と担任がクラスに告げたその日の帰り、俺は黒眼と帰っていた。正確には、帰りのあいさつの後、間髪入れずに教室を出て行った黒眼を、俺が追いかけて捕まえた。諾森の猫化について、三匹が突然消えてしまったことについて、黒眼なら何か知っているんだろう、それを教えて欲しかった。俺たちの、俺のせいではないと、そういう答えが欲しかった。そうして、この言いようもない罪悪感を消して欲しかった。消えなくても、共有できる相手が欲しかった。  黒眼は一言もしゃべらず電車に乗った。俺も乗った。夏休み、何回も降りた駅で黒眼は降りると、かつて猫を遊ばせた公園まで歩いた。オレンジに染まる地面に長い影を落としながら、一点を見つめて歩き続ける黒眼に、俺も何も話しかけられなかった。  公園は相変わらず無人だった。黒眼は木の生い茂る公園の真ん中で急に足を止めた。 「クソったれ!」  突然、目の前の巨体が体を震わせて咆哮したので、俺はぎょっとして立ち止まった。 「なに勝手に消えてるの、あのバカ」 「く、黒眼?」 「そう思わない?」  悲鳴のように聞かれて、反射的にうなづいた。あのバカ、とは誰だろう。もしかして、彼女の黒猫のことだろうか。俺はかつて黒眼がこの公園で見せた、穏やかな顔を思い出した。同時に、スポーツバッグでまるくなる白猫のことも。 「なんというか、寂しいよね、やっぱり。偽物だったけど、でもやっぱ、猫ってかわいかったし」  俺は毛を逆立てる猫に触るようにそおっと言った。黒眼はギンとこちらを睨んで、俺はすくみ上った。
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