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翌朝、普段より大きいスポーツバッグを抱えてリビングに降りると、母さんはぱちくりと目を瞬かせた。
「なんか今日、カバン大きくない?」
「し、資料集が多くて」
ふーん、それ以上は興味がないのか、母さんは思いのほかあっさりと納得してニュースに視線を戻した。俺はどぎまぎしながらグラノーラに牛乳をかけて、母さんの正面の椅子に座った。
「それより、あんたさ」
母さんはそこまで言って、じっと俺を見た。嫌な予感がして、俺は食べるふりで視線をそらした。
「……学校、どう?」
それは、俺が2番目に聞かれたくないことだった。
「どうって、べつに、普通」
ごちそうさま、グラノーラを飲み干して、俺は慌てて食卓を立った。食器をシンクにおいて、洗面所で歯を磨く。追及するつもりはないようだ。かちゃかちゃと食器を洗う音が聞こえてくる。のどまでせり上がってきた熱い塊を吐き出すように、俺は口をゆすいだ。
ポケットの中の、到底中学生が常備する値段じゃない紙幣が、べったりと太腿に張り付いた気がした。
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