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できる限り存在感を消しながら、学校への道をのろのろと歩いていた。
結局、白猫は一晩経っても消えなかった。猫はつるつるとした触り心地でとっても柔らかく、空気で作られたかのように重さも温度もなかった。おれは表面をやぶらないようにそっと触りながら、昔あそんだ触れるシャボン玉を思い出した。
白猫は声も足音も立てない代わりに、俺のそばから離れなくて、部屋を出ると付いてこようとするので、しかたなくスポーツバッグの中に閉じ込めて母さんたちの目をごまかした。バッグの中でうんことかしたらどうしよう、と思ったけれど、どうやら不要な心配らしく、そっと持ち出したソーセージやらツナ缶なんかも、猫はツンと顔を背けて口にすることはなかった。
突き刺さってくる紫外線を感じながら、俺は腕で生え際の汗をぬぐった。学校の間、部屋に残しておくのも心配で、俺はしかたなくスポーツバッグごと猫を持っていくことにした。猫はおとなしいけど、重くて仕方がない。
「お、雉田じゃん」
バッグを抱えなおしたとき、粘着質な声がした。絶望的な気分で振り返る。案の定、諾森とその子分たちが、にやにやしながら俺を見ていた。
「相変わらずもやしみてぇな顔してんな」
知ってるか? もやしって、日の当たらないとこでしか生きらんねえんだってよ、じゃあ今こいつやべーじゃん、死ぬんじゃね。 ぎゃははと子分たちが囃し立てても、俺は何もしゃべらない。
その態度が気に入らなかったのか、諾森は笑いを引っ込めてずんずんと近づくと、デカい顔をぬうっと寄せてきた。
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