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「でさあ、雉田くん。俺たちちょおっと今、金欠なんだよね」
でた。いつものだ。
「あわれなヒンミンに、お恵みをーってね」
諾森は海外映画のピエロみたいに口をゆがませた。俺は黙ってポケットをから一万円を取り出した。
「さっすが神さま、雉田さま」
諾森は俺の手から紙きれをぶんどると、また頼むわあ、とニタニタ笑いながら俺の頭を殴った。木の分厚い諾森の手から繰り出される一発は重く、叩かれただけでお辞儀のように、上半身ごとへし折られる。ぺしゃりと下げさせられた俺の頭を、彼を追いかける子分たちがついでとばかりに殴って行って、そうして嵐が去るまで、俺はその場から頭を下げたまま、動けなかった。
俺の背がもっと高ければ。
俺の力がもっと強ければ。
俺の頭がもっと良ければ。
そもそも、きちんと勉強して私立に受かっていれば。
俺がテニス部なんかに入らなければ。
俺があんな高いラケットをねだらなければ。
俺の家が、あんな大きくなかったら。
俺が、あんな家に生まれなければ。
非力で無能な俺なんか、生まれてこなければ。
俺はこんなみじめな思いをしなくてよかったのに。
スポーツバッグが大きく揺れて、我に返った。頬から滑り落ちた水滴をぬぐって、俺はまたのろのろと、いっそ永遠につかなければいいのにと思いながら、学校に向かって歩き出した。
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