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   薄暗い蛍光灯が事務室前の廊下をぼんやりと照らしていた。  明かりがついているのになぜこんなに暗いのか、文也は不思議でたまらない。  一つ二つなら蛍光灯が古いせいかもしれないが、三階から一階まで全部の蛍光灯がおかしく、不安がさらに増してくる。  死体や散らばる腕や脚に注意しながら玄関に向かって廊下を進んだ。  洗面所を出てから何時間も経ったような気がする。  感覚が麻痺してきたのか、無残な死体やむせ返る血生臭さに少し慣れた。だが、血の海にぶちまけられた内臓を見るとまだ吐き気を催す。  玄関ホールに着いた。  ガラスドアには死体の山とその中に立つ文也が映っている。  電源が落とされているのか前に立っても自動で開かず、手動で試みたがドアはびくともしない。  文也は外の様子を窺うため、ガラスに顔を近づけた。  信号機も街灯もネオンも塾内の照明と同じく薄暗い。立ち並ぶビルやマンションの窓には明かりすら灯っていなかった。それだけでなく、深夜でも交通量のある大通りなのに一台の車も走っておらず、通行人もいない。  玄関までくれば助けを求められると思っていたが当てが外れた。  男の気配ばかりに集中していたので違和感に気付かなかったが、静か過ぎるのはこれだったんだとわかった。  外でも何かあったんだろうか。お母さんは来られるのだろうか。  電話もあれからかかってこない。  文也の心は不安で押しつぶされそうだった。  その時ポケットの中で携帯電話が震えた。悲鳴を呑み込み、血で濡れた手をズボンの尻で拭ってから電話に出た。
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