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 客足が途切れ、祐子は洗面所に行く振りをして控室に戻った。  文也から連絡が入っていないか早く確認したい。それをしないことには仕事に集中できなかった。  エプロンのポケットから鍵を出してロッカーを開ける。キーホルダーがちぎれ、文也の好きなアニメキャラクターがリノリウムの床に転がった。  祐子は慌ててそれを拾い上げ、引っ張り出したバッグから携帯電話を取り出す。  着信を示す光の点滅を見て、大きく鼓動が跳ねた。  履歴には文也の名前がずらっと並んでいる。 「なんなの。これはいったいどういうこと?」  最初は一時間前だ。 「な、何があったの、文也っ」  リダイヤルを押そうとしたが指が震えてうまく押せない。 「落ち着いて。落ち着くのよ」  祐子は深呼吸するとゆっくりボタンを押した。  呼び出し音が鳴り始めるまでの時間を長く感じる。  だが、やっと鳴り出した音は水中で響くような籠った音を数回立て切れてしまった。 「なによ、もうっ」  祐子は再びリダイヤルした。  さっきと同じ呼び出し音が鳴り始める。  奇妙に感じたが、それよりも文也のことが心配だ。  「文也、早く出てっ」  今にも切れそうなぷつっぷつっというノイズが混じっているので気が気ではない。  このままずっと繋がらなかったら――  祐子の目に涙が浮かぶ。  呼び出し音が止んだ。 「文也っ」  返事はなかった。だが切れたわけではなく、ツーツー音も聞こえない。ただただ不気味に静かで思わず祐子は終話ボタンを押してしまった。  膝が震え出し、立っていられなくなって床に座り込む。もう一度リダイヤルを押したが、始まったのはまたノイズ混じりの奇妙なコールだ。 「文也――出て――お願い」  涙が頬を伝い落ちた。  再び音が切れ、耳に静寂が広がる。  唇を噛みしめ、終話ボタンを押そうとした時、ごおっと突風のような音が聞こえた、携帯電話を握りなおし、耳を澄ます。  風の吹き荒れる音が数秒続いた後、爪で引っ掻くようなノイズの向こうで文也の遠い声が聞こえた。
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